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2016年3月22日 (火)

病院坂の首縊りの家、読破(ネタバレ多数)

 ナンか最近は、ウチのブログ検索ワードに八つ墓村が多い
 まぁ映像化作品9本中5作を見比べる(更に原作及び漫画を1作)とか、結構マニアックな事してるしなぁ…

 で、調べてみると『慎太郎 嫌われる理由』と云うワードが目に付いた
 コレは本作で物語の発端が『多治見の財産を里村慎太郎に相続させない為に辰弥を村に呼ぶ事にしたから』であるのが気になるのだろう
 まぁ、犯人の意図からすれば、上記条件が無くとも犯行の動機は有ったのだし、犯行が起きれば『別件で村に呼ばれていた』金田一も乗り出したろう事から、解決もしただろうと思われる
 そう云う意味では、飽くまでも『慎太郎が多治見家内で疎まれている事は、辰弥が巻き込まれる原因』でしかない訳だ
 で、それにしても何故ソコまで慎太郎が嫌われたか…映像化作品では特段説明している作品は少なかった(しかも、非常に印象に残らなかった…誰版だったかな、1件有ったのを覚えている)のだが、その辺を一応書いておこうか

 慎太郎自身は、確かに敗戦を境に没落したが、少佐まで進んだ人物だし、品行も悪くない…確かに多治見姓を名乗ってはいないが、慎太郎の父親が、里村の一人娘を娶った関係で里村姓が無くなる事を危惧し、婿になった形で里村になっただけで、歴とした多治見の血族である
 では、何が嫌われる原因になったか、と云えば、その父親だが、32人殺しの要蔵の弟だった事が原因である
 長男がアレ(我侭放題に育った関係で、村で好き勝手やった上で、婚約者の居る鶴子を路上強姦の上強制的に妾にし、逃げられたと知って32人殺しとか…もぉ何処から突っ込んで良いモノやら)であったのと対照に、非常に人格者だったらしいのが原因の様だ
 大正~昭和初期で長男偏重の時世で、長男よりも人望・能力共に秀でていると周囲に認められた次男は、お家騒動の原因になると思われ、徹底して排除されたそうで…その名残で、その息子であり、没落したとは云え将校にまでなった慎太郎を疎む風習が出来た…と云う事らしい
(併せて云えば、現時点では没落して完全に無一文、多治見に養われてる境遇…と云う事も要因ではある訳だが)
 辰弥も久弥と云う兄(要蔵の実子)が居た訳だが、慎太郎の父の場合は、長男:要蔵に既に子(久弥)が居たので、要蔵が使い物にならん場合でも久弥に継がせれば良かったから不要とされ、辰弥は久弥に子が居なかった(更に云えば、別に久弥は病弱なだけで人格云々で別の跡継ぎを用意する必要が出てきた訳では無い)から呼ばれた…と、云う事なのだろう

 その辺は、本当に明治~昭和初期に生きてきた横溝氏だから書いた話であり、現代の教育を受けている我々は説明されれば『そう云う時代も有ったんだな』で理解はするが、多分ソレを常識と云う形で書く事は出来ないんだろう
 そう云う意味では既に明治~昭和初期(第二次大戦前)辺りまでは時代劇の扱いになって仕舞っても仕方の無い事なのかも知れない


 

 さて、イキナリ話が逸れたが、やっと『病院坂の首縊りの家』の文庫(上下巻)を読破した
 先日、映像化作品(石坂版映画と古谷版2時間ドラマの2本しか作られていない)の解説は行ったので、原作について少々書き留めて置きたい

 以前の記事にも記したが、この事件は確かに色々人が死んだが、結局は脅迫事件だったのだ、と云う印象が抜けない
 舞台は上巻が昭和28年、下巻が昭和48年の港区高輪である
 映像化作品では、石坂版は昭和26年の奈良県吉野が舞台になっており、古谷版は原作(上巻)と同じである…石坂版は場所はロケ地の関係と云えなくも無いが、時代を2年手前にした意味が良く判らない…監督の市川崑氏は横溝作品の造詣に深い人だし、2年ばかり変えた所で何が変わる訳でもないと思うのだが…

 死亡者(事件で死亡した者)数は、山内敏男・法眼由香利(上巻)及び本條直吉・吉沢平吉・山内小雪(下巻)の計5人である
 病死として、本條徳兵衛・法眼弥生(下巻)が物語にかなり重要な位置を占めているが、こちらは間違いなく病死であり、事件性は無い

 映像化作品だと、時間経過が無い(事件勃発の昭和20年代で完結している)事から、徳兵衛が『殺され』、直吉は生き残る(石坂版では直吉も怪我を負うが、古谷版では完全に被害無く生き残る)

 また、吉沢は確かに殺されているのだが、動機がまるで違い(ってか、犯人が違うから動機が違うのも当然であるが)、原作では下巻での殺人犯の共犯となり…まぁ犯人としては、最初から吉沢も殺す事を計画の一部に練り込んでいた…更に云えば、元『怒れる海賊たち』の面子を全員殺す計画だった所を、金田一に阻止されるのだ
(吉沢の殺害は、金田一の予想以上に素早く行われたので防げなかった)
 そう、殺人防御率が激低と云われる金田一だが、此処では殺人計画の途中で阻止に成功するのだ(コレは結構重要な気がする)

 上巻の2人は、映像化作品では在る意味此処が中心になるのだが、2作とも由香利は事故死、敏男は後追い自殺、風鈴に見立てる装飾は敏男の遺言、と、云う事で一致している
 ところが、原作では二人は相討ち(ただし、小雪が現場に到着した時には敏男も遺言(後述)だけをうわ言の様に云っていただけらしく、真相を疑う事も可能だが、取り敢えずソコには言及していない)と云う事の様だ
 そうすると、風鈴に見立てた装飾は何故必要だったか、と云う話になるのだが、幾つかの要因が有った様だ
 1つは、映像化作品でも要因とされたが、敏男の遺言…と云う事も有ったらしい
 2つ目に相討ちの様相が非常に酷く、首から下の死体損傷が激しく観衆に晒されたくなかった事である…特に敏男は鞭で散々シバかれた上に先端の硬い棘部分で陰部を繰り抜かれているとの事で、敏男の名誉の為…と云う点が強い
 最後に、どぉも敏男は由香利解放後も由香利との逢瀬を繰り返していたらしく、周知(怒れる海賊たち)には小雪との結婚と振れており、更に事実婚だった小雪としては、浮気現場での死亡を隠したかったと云う意味もあるらしい

 さて、物語の発端に近い位置にある山内冬子の自殺なのだが、どぉも映像化作品の方が凝って考えている…と云うか、映像化作品では、かなり血縁状態を複雑化させ過ぎている嫌いがある
 原作では、特に冬子と法眼弥生、又は山内敏男と弥生に血縁関係は無く、小雪と敏男も血は繋がっていない
(敏男は冬子の前夫の継子であり、冬子は小雪しか産んでいない)

 由香利と小雪の関係は姪・叔母(由香利の母が小雪の異母姉妹)と云う事になるのだが、まぁスグサマ入れ代わっても気付かれない程に瓜二つ…と云うのは双子でもかなり難しい(私も一卵性双生児の兄弟と同級(小学時分に弟と、中学時代に兄と)だった事が有るが、容易に見分けは付く)ので、コレは本当に偶然…と云う事で済ませたのだろう
 ただ、この二人が瓜二つ…つまり、法眼琢也の血筋が色濃く入っている、と、思える事態なのが結構重要な意味を持った
 と、云うのも映像化作品では『弥生が猛蔵に強姦され、そのまま半妾の様な扱いがあった過去』…と云うのが徳兵衛が弥生を脅迫するネタだった訳だが、此処は原作を少々アレンジしている程度で事実関係は近いのだ

 何処がアレンジかと云えば、弥生は当時嫌々だったか…と云えば、ソコまでではなかったような過去らしい
 弥生の母、鶴子は弥生を生んで直ぐに夫を亡くし、兄:鉄馬の云い付けも有り、猛蔵と再婚したが、そんな境遇の鶴子はナニを云ってもやっても受身の、当時で云う『日本の妻』の典型だったらしい
 いくら美しくても、コレでは欲求が満たされない猛蔵が次の相手に選んだのは弥生だったが、こちらは非常に快活に育った事等も有り、ソレナリに相手をしていたらしい
 しかし、年頃になり、琢也と結婚して子を宿すと『自分の生んだ子は琢也の子なのか、猛蔵の子なのか』で悩み、結果として実の子である万里子と更にその子(孫になる)由香利に余り愛情を注げなくなっていたらしい
 ソレを子らは敏感に感じ取り、愛情を貰えなかった子として所謂拗ねた大人になった結果、家柄と財力は高い傲慢な性格の子になった…と云う経緯である
 ただ、同じ『琢也の子』である小雪を見て、由香利は琢也の血筋である…つまりは万里子も琢也の子である…と、確信したのは上巻の事件後、小雪を初めて見てからであり、全ては遅かったのだ

 話は戻るが、冬子の自殺について…冬子が弥生の実子(石坂版)だとか、敏男が弥生の実子(古谷版)だとかが無いのであれば、何故冬子が自殺に至ったか…コレは琢也のポカ…としか云えないだろう
 まぁ軍役に出た訳でなく、空襲で突然死んで仕舞ったのだから、仕方ないと云えなくも無いが、妾を囲っておいて、本妻に対して事後を全く引き継いでいないのが原因である
 昭和初期当時は、重婚は認められていないが妾の存在は半ば公的に認められていた(法律上は、明治中に廃止されたが、風俗としては残った)訳で、しっかりと琢也は弥生に冬子の事を頼むと云って置けば良かったのだ

 チト話を逸らすが『妾』と云う言葉は良く知らずに使っていた事に気付く
 調べると『婚姻した男性が妻以外に囲う、経済的援助を伴う愛人』と云う事であり『対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交する』売春とは『不特定の相手方』と云う点で違い、今でも『妾を囲う』事は刑法的には犯罪の定義に入らない
 また、狭義には『妻も承知しており、社会的に隠された存在では無い』モノであり、妻に隠れて行う不倫とは意味合いが異なるモノの様だ
 つまり『妾を囲う』のは、男の甲斐性(その女性や子供の生活面で不自由させないので)だが、『隠れて不倫』は男の不貞である…と云う違いが有る訳だ
 特に戦中・戦後の時代は男性が少なく、女性が経済的に自立出来ない時代だったので、この様な習慣・風土が幅を利かせていたのだろう
 山内冬子の例で云えば、法眼琢也は妻、弥生に冬子の存在及び子供(冬子の前夫との子である敏男と、琢也との子である小雪)の存在は伝えており、弥生もソレを承知していた関係の様だが、飽くまで琢也が処理する問題として弥生は一切の対応を任されなかった…ソコで琢也が空襲で急死した、と云う状況になった訳だ

 で、住処を空襲で焼け出され、頼るものは琢也のみとなった冬子が法眼家を訪れれば、琢也の訃報は知らされたが、家ではナニも保障せずに門前払い(丁度、事情を聞いていた弥生も地方に出ており、対応は弥生の娘の万里子が行ったのだが、上記の通り万里子は高慢に育った娘である)をされ、自殺…と云う顛末らしい
(子供2人放って自分だけ死ぬのは如何なモノか…とも思うがな)

 そう云う意味では山内兄妹も法眼家に一定以上の恨みは持っていなかったと推測出来る(当然、一定線までは恨んでいたと思うが)
 ただし、由香利は…会う事は出来たが侮辱を受けた…との事なので、事件の発端になる由香利誘拐については、ある意味自業自得だったのではないか、と思われる
 コレも上記『愛情を注がれなかった子(万里子)の子であり、由香利もまた、弥生から愛されなかった子である』事に起因すると思われる…因果応報、とでも云うのだろうか

 で、犯人…と、云っても『何の』犯人か…つまり、この作品では目に見える殺人(上記の通り山内敏男、法眼由香利及び本條直吉、吉沢平次、山内小雪の5人が殺されている)で云えば、上巻2人は相討ちであり、下巻3人は同一犯に因る殺人である
 映像化作品では上巻2人は上記の通り事故死・後追い自殺で、下巻3人はやはり同一犯に因る殺人…であるのだが、この犯人が変わっている
 死んだ由香利と行き場のない小雪を入替える事にしたのは弥生で原作・映像作品共に共通だが、映像化作品ではその後の殺人も弥生の犯行となっており、原作では…滋である
 …滋、この名は前回の記事も含め此処までで殆ど出て来ていない…誰? とも思えるのだが、前回の記事に記した映像作品では、由香利の婚約者(石坂版)又は弥生の現夫(古谷版)で、五十嵐家の一粒種である
 原作では再三の通り20年の時が過ぎているので、上巻の最後に由香利と結婚し、渡米している(下巻では帰国している)のだが、結婚した相手が由香利に『なった』小雪である事を知らされずに20年を過ごした、ある意味可哀相な人でもある

 コレの動機にも絡む事だが、冒頭に記したとおり、この作品での本質は脅迫・恐喝事件であり、被脅迫者が脅迫者に対して行った対応が殺人となった…と云うだけである
 ただ、間抜けな事に殺された本條直吉は脅迫者ではなく、脅迫者に勘違いされた者であるのが、原作での特異性である
 また、吉沢が殺されたのは、元『怒れる海賊たち』皆殺し計画と併せて犯人の八つ当たりに近い状況で、最後の小雪に関しては、事故に近い
(ある意味、全ての終結を悟った小雪が、ドサクサに紛れて滋の拳銃を自分に向けて暴発させる様に組み付いた可能性も有る様だが)

 映像作品での徳兵衛・吉沢は間違いなく弥生を脅迫(石坂版では、吉沢は最初、滋を脅迫したが、今度は滋が弥生を脅迫…ソコで、弥生は吉沢を殺害、滋に罪を着せる行動に出た。古谷版では直接弥生を脅迫した)していたので、動機も判りやすかったのだが、原作では脅迫された滋が脅迫者を勘違いして直吉を殺害した…と云う構図である
 直吉もまぁ…徳兵衛が弥生を脅迫して得た本條会館で会長職にもなったのだから、脅迫者の利益供与を受けた形にはなるのだが、犯行自体は晩年になるまで知らなかった様だし、可哀相な話である

 では、原作での脅迫者は誰か…と云えば、既に名の出ている徳兵衛と、兵頭房太郎である
 …をぃをぃ、此処でまた初見の名前が出て来たぞwww
 そりゃそうだ、この房太郎、映像化作品では出てきていないのだwww
 原作では本條写真館(上巻)の助手として写真術を学んでおり、下巻では独立してヌード写真家としていた人物である
 その伝手で、本條写真館が躍進して本條会館(冠婚葬祭から新婚旅行前の宿泊まで一気に可能とする大会館…映像化作品では徳兵衛の夢に終るが、原作では20年間~ソレ以前から~にも及ぶ恐喝で得た資金を元手に作り上げ、繁盛している)となった下巻時点でもフリーパスで過去の資料館に入っては恐喝の種になる写真を物色出来る立場に居た人物である
 映像作品では、石坂版には本條写真館の助手と云う立場で日夏黙太郎と云う人物(演:草刈正雄)が登場しているが、コレは金田一の助手的立場(原作ではシリーズ数本に登場している多門修と云う人物に当たる)の位置にあり、犯罪とは無縁であるし、古谷版には、そもそも本條写真館に助手など居ない
 コイツが本條写真館に保存してある写真を元に滋を恐喝(コレも、当然だが由香利=小雪を知らないので、由香利と滋の息子、鉄馬は敏男の子である…と、云う事をネタにした)し、滋は写真の出所から直吉を脅迫者と勘違いして殺した…と云う構図である
 まぁ…映像化するにはチト複雑ではあるな

 さてさて、事件後の舞台については原作でも語られていない
 本條写真館…下巻時点では本條会館だが、コレは直吉に息子と娘が居るが、学生であり、事業を継げるとも思えない
 当面は、創始者の血縁と云う事で名ばかりの会長職として生活は出来る程度の褒章は得られるだろうが、法眼家と経済的に切れた本條会館が何処まで存続出来るかは不明である
 法眼家・五十嵐家について云えば、五十嵐家には跡取りが居ない…結局、滋は子を成せなかった(上記の鉄馬は敏男と小雪の息子)のだから、コレは仕方が無い
 五十嵐産業は法眼家の影響を抜けた企業として続くのだろう…しかし、実質この企業を回していた弥生・由香利(小雪)の死亡と滋の逮捕等スキャンダルが続いた訳だ、今まで通りの業績が残せるとは思えない
 法眼家(病院事業)は完全に法眼家の跡取りである鉄馬は医者になる気は無い様だし、病院を潰すか、他者に渡すしかないだろうな…序でに云えば、鉄馬は恋人の家に婿入りし、法眼の家も潰すかも知れない
 法眼滋は、その背景から酌量の余地は有るにしても、3人の人間を殺しているので、実刑は免れないだろうし、出所してもこれ以上血筋を残すことは出来ないと思われる

 で、以前の記事でも書いた通り金田一は渡米後消息不明…と、なっている
 ナンでも横溝氏は生前、金田一は昭和50年に密かに帰国し、余生は日本で送った…と、語った事が有る様だが、当然その辺りは小説にはなっていない
 実際、余生と云っても、ほぼ全財産を現金化し、知人やら施設やらに分配しているのでは、どうにもこうにもなるまい…とは思うのだが
 昭和50年と云えば、オイルショックの影響が冷めずに、まだ不況期だった筈である…金田一はと云えば、63歳にもなっており、金も身寄りも無い60の老人が生きて行けるほど楽な時代は過ぎていると思うのだが

 ナンかネタバレが多過ぎて、もぉどうもこうも無い状態になって仕舞ったが、これから読もうか、と云う人には申し訳ない
 最初からネタバレ多数を明言しているので、ソレを承知で読んだのだ、と勘弁して欲しい
 さて、次回は…ネタが無い(毎度の事だが)
 故に、何を書くかはその時になってかな
 ソレまで皆様、御多幸を^^

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